『幻の女』(ウイリアム アイリッシュ)
妻と喧嘩し、あてもなく街をさまよっていた男は、風変りな帽子をかぶった見ず知らずの女に出会う。彼は気晴らしにその女を誘って食事をし、劇場でショーを観て、酒を飲んで別れた。その後、帰宅した男を待っていたのは、絞殺された妻の死体と刑事たちだった!迫りくる死刑執行の時。彼のアリバイを証明するたった一人の目撃者“幻の女”はいったいどこにいるのか?最新訳で贈るサスペンスの不朽の名作。
(商品解説より)
不思議な読後感。それは読んでいる最中もずっと感じる不安定な気持ち。
「幻の女」という題名どおり、その女は幻覚なのか、それとも実在するのか―。読者はページをめくる度にその思いに囚われます。
様々な人物が現れては消え、また別の人物が現れる。読者も登場人物と同じように「幻の女」を追い、つかまえたと思った途端に、指をすり抜けて消えていくような、歯がゆい思いを感じます。
自分が見たものは本当は存在しなかったとしたら?
あの時の記憶が間違いだったとしたら?
もし自身にも同じことが起こったら不安でたまらないでしょう。
起こった「事実」は一つだとしても、私たちにとって「真実」は一つではなく、人の数だけあるのかもしれません。
どちらかだ嘘をついているのでなければ、きっとどちらもその人にとったら「真実」なのです。
日常で感じる不条理さや、自分に対する不信感に悩んでいるなら、この本を読むことで、真実に立ち向かう勇気をもらえるかもしれません。
『舟を編む』(三浦しをん)
あなたには何か夢中になれるもの、これがあれば他は何もいらないというもの、人生をかけることができるものがあるでしょうか。
『舟を編む』は辞書づくりに人生をかけた人たちの物語。まさに生きることと辞書を作ることが一致している特異な人が主人公。彼の頭の中には辞書「大渡海」を出版する、ということしかありません。
この人、辞書づくり以外には全く興味がなく社交性にも欠け、そのちぐはぐな振る舞いや言動がとても面白いのですが、私は、出版社で働く主人公の同僚で、特に辞書づくりに情熱を持っていない「普通の人」の方にとても感情移入してしまいました。
私自身も、必死に何かに取り組んでいる人を横目に見ながら、自分は到底そこまでできない、と思いながら生きている人間です。
そのような人からみれば、きっと主人公のような人がそばにいると、嫉妬心と尊敬がない混ぜになった微妙な心持ちで接することになるのでしょう。そしてその度に「なぜ自分はこうでないのだろう」「自分は何なら夢中になれるだろう」と自問自答すると思います。
会社の帰りの電車のなか、スマホを眺める指をとめ、ふと「こんな人生でいいのかな・・・」と虚しい気持ちに囚われることはないでしょうか。
この物語は「自分には何もない」と思っている人にも、勇気を与えてくれると思います。あなたにはあなたの生き方がある。自分ではない誰かの人生を羨むのではなく、あなたの人生を歩む。
そして、真っ直ぐにやりたいことに夢中になっている人たちも、きっと悩みや葛藤を抱えながら生きている。そう思うと「自分がしたいこと」ではなく「自分が誰かためにできること」は何だろうか、とも思うのです。
あと、辞書づくりの裏側や出来上がっていく様子を知ることができるのもとても興味深い。大学の専門分野の先生に、見出し語の用例を依頼しているところなんて面白いですよ。辞書ってこうやってできていくものなのだ、と感心しました。これから辞書を見る目が変わると思います。何だか、辞書を「読みたく」なりました!
『The Chalk Man 』(C. J. Tudor)
それは、ほんのゲームのはずだった…。
いつ始まってしまったのだろう。
僕らがチョークマンを描きだした時なのか?
現実にチョークマンが現れだした時なのか?
あの陰惨な事故からか?
それとも、僕らが一人目の死体を見つけたあの時…?
(商品解説より翻訳、抜粋)
アメリカの田舎の町で起こった不可解で陰惨な事件。少年、少女たちは大人に成長するが、再び奇妙な事件が発生する…。
家庭に問題を抱える4人の少年たちと一人の少女が「邪悪なもの」の引き起こす事件に巻き込まれる。そして、現代と過去を行き来しながら、隠されていたことが徐々に明らかになっていく、というところがスティーブン・キングの「IT」を思い出す設定です。いじめっ子という言葉が可愛すぎるくらい、ひどい事をする上級生が出てくるところとかもそっくりですね。
ただ、パクリではなくリスペクトかなと思います。
設定はそっくりですが、内容は全く違うのでご安心を。
僕はよく「棒人間」と呼んでた、あの丸を書いて、棒を伸ばして手足を書く、あの人の形で、それをチョークで書くから「チョークマン」。事件にそのチョークマンが大きく関わってきます。
どう見ても怖くなさそうですが、物語にはしっかり、不安で重苦しい暗い雰囲気を感じました。
著者のC. J. Tudorは「女性版スティーブン・キング」とも言われているようで、他の作品でも、スティーブン・キングの名作を思わせるものがあるようです。
スティーブン・キングもこの作品に「自分の作品が好きなら、きっと気に入るよ」とコメントを寄せています。
英語は比較的読みやすいと思います。単語も英検2級~準1級くらいかな、と思います。薄いので読みやすいですし、その割に読み応えがあります。
日本語訳書はこちら
『Divergent』(Veronica Roth)
世界は「性格」によって、“無欲”、“高潔”、“博学”、“平和”、“勇敢”の五派閥に分けられた。16歳、選択儀式にのぞみ、所属する派閥を決めねばならない。しかし運命を決する適性テストで下された診断は、いくつもの派に適性のある異端者(ダイバージェント)。そのことは誰にも明かしてはならない―。ベアトリスは“無欲”に属する親に背き、“勇敢”として生きることを決意する。危険過ぎるサバイバル・ゲームの幕が切って落とされた!
日本語訳書の商品紹介より
ストーリーは、主人公がある「派閥」に入派したあとの訓練・試練の内容が結構占めます。試練を経て新入りのランキングに残れなかったものは、どの派閥にも属さず虐げられる存在の「無派閥」の地位に落とされてしまいます。
それぞれ、他の派閥に対して偏見や対立があります。また、生まれながらにその派閥にあるものと、他の派閥からの転入組の対立があったり、転入組のなかでも嫉妬や対立、思惑、策略があったりと、ランキングに入るための争いが繰り広げられます。
試練に脱落して「無派閥」になってしまったら、社会に属することのできない存在となるので、なかなかランキングが上がらない主人公の焦りや、そして不吉と言われる異端者(ダイバージェント)と判断された戸惑いもあり、家族の分断を招いてしまった後悔のなかで翻弄されます。
そして、派閥同士の対立にも主人公は巻き込まれていくのです…。
この作品はヤングアダルトのジャンルにあたる作品です。10代のティーンエイジャーが対象みたいです。なので、難しい単語は少ないと思います。読みやすいです。
と言いながら、お恥ずかしいですが、物語の中に出てくる、”Ferris wheel”=観覧車という単語を知らなくて、何となく「建物の名前かなあ」と勝手に想像しながら読んでました。当たり前ですが、読んでいても全然ストーリーが追えず、どうしてもシーンが頭に浮かんできません…。
何かおかしい、と思って”Ferris wheel”を調べたら「おぉ、観覧車のことだったのか…」となりました。逐一、単語を調べすぎてしまうと、物語を読むテンポが遅くなって読むのが嫌になるので、面倒くさくて想像で補ったりしていました。
でもめんどくさがらず、ちゃんと単語は辞書ひかないとだめですね。私の場合、せっかく作家の方が創ってくれたドキドキ感を、自分の語学力の無さのせいで汲み取れなかったら、なんだか申し訳ない気持ちになってしまいます。
また、かなり昔に同じくヤングアダルト向けの「Twilight」を辞書をひきながら、すごーく時間がかかって読んだことを思い出しました。もしかしたらあれが洋書のペーパーバックを読んだ初めての本かもしれないです。
Kindleで読む場合は単語をタッチすればその意味が出てきます。また、紙の本の場合でも、辞書アプリを入れたスマホを片手に読めば、簡単に意味を調べることができます。なので、昔に比べてかなり洋書を読むハードルが下がってきたのはとても良いことですね。また、価格も昔とは大きく変わり、電子書籍は本によってはびっくりするほどお安く読めますよね。
日本語訳書はこちら
映画もあります!洋書が厳しければ映画を見てから読む、というのもありかもしれません。
『Where the Crawdads Sing (日本語訳書名:ザリガニの鳴くところ)』(Delia Owens )
ノースカロライナ州の湿地で男の死体が発見された。人々は「湿地の少女」に疑いの目を向ける。6歳で家族に見捨てられたときから、カイアはたったひとりで生きなければならなかった。読み書きを教えてくれた少年テイトに恋心を抱くが、彼は大学進学のため彼女を置いて去ってゆく。以来、村の人々に「湿地の少女」と呼ばれ蔑まれながらも、彼女は生き物が自然のままに生きる「ザリガニの鳴くところ」へと思いをはせて静かに暮らしていた。しかしあるとき、村の裕福な青年チェイスが彼女に近づく……みずみずしい自然に抱かれた少女の人生が不審死事件と交錯するとき、物語は予想を超える結末へ──。
(日本語訳書の商品解説より)
6歳の少女が、ひとり湿地の粗末な家で暮らしているという、悲惨な状態。しかしKyaは美しい自然のなかで多くの生き物と暮らしながら、寂しく傷ついた心を抱えて強く生きています。
自分たちのコミュニティからはずれた人を見るとき、私たちは深くその人を知ろうとするよりも、「変人」のレッテルを貼って、何か問題を起こすとか近寄らないほうがいいとか、蔑んだ目で見てしまいがちです。 その残酷な態度や目線が、物語ではKyaを不幸に追い込みます。読者は彼女の境遇に同情しながらも、実際の生活では私たちは彼女を不幸に追い込む側にもなっているかもしれないのです。そのことに、私は胸が痛くなりました…。
単語はそれほど難しくなくないですが、ところどころ出てくる植物や鳥の名前でいちいち辞書を見たりして、結局読み終わるのに時間がかかりました。セリフで英語の訛りがあるところもあって、見たことがない単語?と思ってしまいましたが、 dawder(daughter)やsump'm(something?)になったりしています。慣れればなんとなく想像できるので、そこまで難しくはないかなと思います。
また、少女の頃と、大人になった頃と、章ごとに物語の時間が前後しながら進むので、ちょっと混乱するところがありました。
日本語訳の『ザリガニの鳴くところ』はこちら。 原書は、上のように表紙が映画のイメージに変わってしまったのですが、 やはり元の表紙の方がいいですね。
『The Testaments』(日本語訳書名:誓願)(Margaret Atwood
侍女 オブフレッドの物語から15年後。 侍女の指導にあたっていた小母リディアは、司令官たちを掌握し、ギレアデ共和国を操る権力を持つまでになっていた。 司令官の娘として大切に育てられるアグネスは、将来よき妻となるための教育にかすかな違和感を覚えている。 カナダで古着屋の娘として自由を謳歌していたデイジーは、両親が何者かに爆殺されたことをきっかけに、 思いもよらなかった事実を事実を突きつけられ、危険な任務にその身を投じていく。 まったく異なる人生を歩んできた3人が出会うとき、ギレアデの命運が大きく動きはじめる。
静かに、強靭に、闘いをやめない女たちの物語。
(日本語訳書の商品紹介より)
違う立場の3人の女性の手記によって物語が進んでいきます。章ごとに手記の著者が入れ替わりながら、まるで織物のように彼女たちのストーリーが編まれていき、そして一つの結末へとつながっていく様子が、素晴らしいです。
また、最後の追加コンテンツとして、この本を振り返る「ディスカッション・ポイント」があるのも面白いと思いました。他の洋書でも見たことがありますが、本の内容が自分にどのような考えや観点を与えたか、自分ならこんな時はどうするかなど、10個の質問があり、この本を同じように読み終わった人と、話しをするのに役立つと思います。
英単語はそれほど難しいものはありませんでしたが、所々聖書の内容が出てくるので、全く知らなければ難しいところがあるかもしれません。また、前作「侍女の物語」から続く物語なので、前作からの主な舞台であるギレアデ共和国独特の風習や施設、歴史も、少し戸惑うかもしれません。前作「侍女の物語」を読んでいれば問題ないと思います。
あと、ブックデザインがとても素敵です。女性の襟元に、手を広げる女性が隠れていますね。
日本語訳書はこちら。
『A cold heart』 (Jonathan Kellerman)
LA市警 殺人捜査官のMilo Sturgisは、友人の臨床心理医のAlex Delawareをあるギャラリーに呼んだ。そこでは、有望な若いアーティストの絞殺死体が。 Alexは事件現場をみて、衝動的犯罪ではなく連続殺人の可能性を読み取った。
その予想はある有名なギタリストの殺害によって裏付けられる。さらに殺人事件は続き、犯人の狂気のパズルを解き明かすことで、身も凍るような真実へとつながっていく―。
商品解説より翻訳、抜粋
Alex Delawaresシリーズ。日本語訳でもマイロとアレックスの二人が活躍するシリーズは少し出ていますが、多分この本は未訳。他のシリーズもあまり翻訳されていないみたいです。ジョナサン・ケラーマンの本は原書では結構出版されているんですが。
この物語はそこまで陰惨なシーンは多くないです。そういうのが苦手でも大丈夫かも(でもちょっとある)。被害者がミュージシャンということもあり、いろいろギターが出てくるのも、昔ギターが好きだった私は楽しめました。
章ごとに複数の人物の視点で切り替わるので、物語を追いかけるのが少し大変でした。老若男女みんな一人称は「I」だから、英語って難しいですよね。でも登場人物の人間性がみんな面白いです。
臨床心理医が主人公なので、心理学用語も少し出てきますがそんなに多くはありません。また、英検1級レベルの単語が、ちょこちょこと出てきました。意外と難しい単語が多いかもしれないです。
しかし何より、登場人物が結構多い。これ誰だっけ・・・と読みなが元にもどることもよくあります。しおりに、登場人物メモを書いていけばよかった、と半分を読み終わったくらいに思いました。これから読まれる方はぜひ。
また、こういう時にKindleの「X-Ray」機能はありがたいですね。文中の人物の名前を選択すれば、どういう文面でその人が出てきたか表示されるので、思い出すのに役立ちます。
私は電子書籍をKindle Oasisで読むことも、紙の本で読むことも、どちらも多いですが、Kindleの機能は辞書機能やたくさん本を持ち運べるところなど、本当に便利だと思います。でも、どちらかといえば紙で読みたい派なので、まだ全部Kindleで読みたいということもなく、いつも値段を参考に、ちょっと紙の本を贔屓目に、選んでいます。
ちなみに、私は知らなかったのですが、Alex Delawareシリーズの1冊で、全38巻もあるそうです。本書はその17巻になります。この本が気に入ったら、ぜひ他のシリーズも読んでみては。