洋書屋トトの読書生活

トトは古代エジプトの知識の神。この世のあらゆる知識を込めた42冊の本を書いたとされています。

集英社文庫ヘリテージシリーズ版 ユリシーズ1が届きました。

ここ数日、ユリシーズづいています。結局、日本語翻訳されたユリシーズを読みたくなり、Amazon集英社文庫ヘリテージシリーズ版一巻だけを購入しました。全巻はちょっと読破する自信がないのと、柳瀬尚紀ユリシーズも、気になる存在。柳瀬版は訳注がないらしく、そんなの、本当に大丈夫なんだろうか。

だがしかし!集英社文庫版、訳注が多すぎ。これ、一巻のうち1/4は訳注じゃないですか?しかもこの訳注も、調べるのすごい時間がかかったでしょうね。ただ翻訳するだけでも時間がかかりほうなものなのに…。しかも訳注にも訳注必要なんじゃないだろうか、とも思ってしまいます。

しかし届いて意外だったのが、そのコンパクトさ。そういえば文庫サイズだったのか。なんとなくユリシーズといえば、版型が大きいような気がしていて、通勤電車で読むには…と思っていたから、文庫サイズで持ち運びが全く問題ないのが嬉しかった!

表紙を開くと、おお、ジョイスが微笑んでる。珍しく笑顔を浮かべている、なんてかかれてます。一巻は、第二部の8章 ライストリユゴネス族まで。本文が353ページあり、その後に訳注が162ページも。本文の約1/2もあるというボリューム。しかも字が小さく2段組。

その後に解説やエッセイ、ジョイスの年譜や、アイルランド史略年表(なんで?)そしてダブリンの地図が載っています。各章の、初めには、その章の場所や、時間などの、コンテキストや、、登場人物が紹介されます。色彩とか。色彩?となりますが。

さあ、一巻だけならさあっと、読めそうかな。

本文を、読みながら、訳注を参照しながら、というのもゆったりした読み方でいいかもしれませんが、言っておきますと、全然すすみません。この読み方はめちゃくちゃノロいです。それもよし、ですが。

とりあえずゆっくり読み進めてみます。1巻さえ読み終えてないのですが、同じジョイスの他の作品も、すぐ気になってしまうのが私の悪いところ。

集英社文庫ヘリテージシリーズには、ジョイスの「若い藝術家の肖像」もあります。

あと、河出書房のフィネガンズ・ウェイクというジョイスの本、表紙のデザインがよくて、ジャケ買いしたいくらい。

ユリシーズのドラマ音声(英語)がポッドキャストでダウンロードできます。

ユリシーズについて前エントリーに書いたように、毎年6月16日はブルームズデイとしてファンが集うそうですが、今年はコロナの影響でイベントが行われなかったようです。その代わりとして、1982年にラジオ局が作成した、ユリシーズの本文すべての読み上げ、ラジオドラマ風に俳優が読み上げた録音がダウンロードできるとのこと。無料で、ポッドキャストなどでダウンロードして聞けます。収録時間は約30時間に及び、38人の役者が演じています。よくやろうとしましたよね…。無料で聞けるといっても、まあ、全部読み通すことが難しすぎのユリシーズの、英語で聞すべて聞き通す、これも不可能に近いと思えます。

しかし、ですよ。

試しに聴いてみると、おっ、ちょっと行けるかも…。まず1章が、だいたい1時間くらいの設定の物語ですが、録音時間を見ると40分くらいのものもある。ちゃんと登場人物は役者が、それぞれ演じて、セリフのように感情込めて話すし、語りの人は別にいるし、心の声はちょっとエコーかかってるし。なので、誰が喋ってるか?ふざけた調子で、喋ってる、怒ってる、など、文面以外の補完してくれる情報もあるので、単語が分からなくても、なんとかついていける。しかし15章はなんと約5時間ある。1時間の話のはずなのに。昔、2時間の映画を3時間かけて説明してくれた人がいました。そんな感じか。

とはいえ、耳で聴いているだけでは、私は聞き取れないです。そこで、ポッドキャストを聞きながら、Kindleで原書を目で追っています。すべては理解できませんが、先ほど行ったように付属情報が理解を助けてくれます。

原書は、Kindle Unlimitedを契約している人なら、「一冊英単語」シリーズで「ユリシーズ」が読めます。契約していなくても、400〜500円くらいで電子書籍なら買えます。これ、日本語の紙の本と、すごい価格差ですね。また、Wikipediaには、プロジェクトグーテンベルクのリンクもついているので、オンラインでも無料で読めます。しかし、長ーいので、Kindleアプリで読むほうが楽かと思います。

Ulysses - listen to the epic RTÉ dramatisation

ユリシーズ、記念の日に想う。

書評、ではありません。読んでないから。

難解と言われながら、20世紀最高の文学書ともいわれ、読むのに途中で断念したランキングにも必ず入る「ユリシーズ」。今日、6月16日は「ユリシーズ」にとって特別な日。「ブルームズデイ」として、アイルランドのダブリンで毎年世界各国からファンが訪れるそうです。

それは、アイルランドの作家ジェイムズ・ジョイスの「ユリシーズ」が、1904年の6月16日のダブリンの一日を描いた小説だから。そして、主人公の名前が、スチュワート・ブルームだから。毎年、いろいろなイベントが行われるようだけど、今年は新型コロナの影響で、大きなイベントは、おこなわれないらしいです。

そんなニュースをみて、「ああ、ユリシーズはなんだかんだで結局読んでないな」と思いました。多分自分には太刀打ちできない小説であることは、情報として知っていました。意識の流れをそのまま切れ目のない文章で綴ったり、ギリシャ文学やキリスト教の知識や複雑な構造…。しかし、たまたま、知り合いの家の本棚に「ユリシーズ」があり、しかも原書で驚いたことや、その次の日に「ブルームズデイ」なんてものがあることを知ったり、そんな事もあり、今しかないんじゃないか、と思い直しました。そう意を決して、決して安くはない(もちろん日本語のですけど)本を手に入れようと思います。

原書はKindle電子書籍が驚くほと安い!でも、絶対無理!

やっぱり手に入れて、本棚に並べたいのは、もとい読みたいのは定番の集英社文庫ヘリテージの4冊。そして、一番新しいのは、柳瀬尚紀さん翻訳の『ユリシーズ1-12』(河出書房新社)。しかし全18章中12章までという特殊さ。翻訳者が途中で亡くなってしまったためですが、その後に出版された『ユリシーズ航海記 『ユリシーズ』を読むための本』にも15章の一部が掲載されているそうです。また同じ著者の「ジェイムズ・ジョイスの謎を解く(岩波新書)」も併せて読んでみたい。

ついでに言うと、2年後の2022年は「ユリシーズ」出版100周年とのこと。それまでに読み通せるか。ついでについでに、このブログはUlyssesで書いてます。

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【書評】 辞書を編む 「いつも」と「ふだん」その違いは?

舟を編むがヒットして、辞書編纂者にスポットライトがあたったことがありました。sの辞書編纂者 飯間浩明さんの著書。辞書の語義に関して、面白い話がいっぱいでてきます。辞書編纂の神様、見坊豪紀の話や、もちろん辞書をどうやってつくるのか、「舟を編む」でも、「右」というものの語釈が出てきましたが、そんな話が好きならきっと楽しめる本だと思います。右のページと語釈として、この本の偶数側のページの方向という説明があるが、電子辞書の時代になってきて、偶数も奇数もなくなっている、ということ。東を向いた時の南の方向という説明は普遍的なのかな、という気がします。

代表的な3つの国語辞典、三省堂国語辞典新明解国語辞典、岩波国語辞典の3つを比べてみるのが面白い。中には、あそこよりいい語釈をみつけるぞ、というライバル心を燃やしたりするなんて、今まで考えたことなかったです。というのも、普通の人は、この「辞書」という本を作っている人のことにまで興味を持つ人は基本的に少ないでしょう。しかし、まさに「人間」の所業で、人間がその語を集め、語釈を考えて、採用されたり不採用になったり、いろいろな人間っぽいエピソード満載です。

また、現代の視点からいうとサブカルチャーの項目にも時代のギャップがでてきます。このような項目にたいsても時代の感覚に合わせるのか。キャバクラという語釈、これをクラブやスナックとはどう違うのか知るために行くべきか?(筆者は結局行きます笑)

今の時代、辞書はいろいろな形態になり、ネットで「無料」で使えるものも多くあり、なかなか辞書で食べていくには、難しい時代なんだろうなと思います。しかし語釈が人が絞り出し見つけるもの。また、時代に合わせて変わっていくもの。そして、その辞書の個性も感じれるもの。その価値を考えると、しっかりした辞書を書棚には置きたいなと思います。

舟を編む」は映画で見ましたが、原作は読んでいません。ぜひこの機会に読んでみようと思いました。あと、国語辞書は買うなら三省堂国語辞典にします!

【書評】 調香師の手帖ノオト 香りの世界をさぐる

香りのシンフォニー。それは絵画でいえば色彩であり、料理でいえばスパイスや食材、そして楽器ならもちろんオーケストラ。香りは複雑に混ざりあい、鼻に届く。お香や香水、アロマなど、その香り自体を楽しむものだけでなく、もちろん料理の味にも大きく関わってくる香り。

長年、資生堂で香りのプロとして働いてきた著者の幅広い知識と豊富なエピソード。

香木では、有名な蘭奢待(らんじゃたい)は正倉院に納められている香木。聖武天皇の時代と言うから1300年近く前から、芳しい香りを、放っているという。その香りは、、織田信長徳川家康もその香りを楽しんだとのこと。

香道にも触れられています。先日NHKBSでたまたま見た「平成の名香合~香道 五百年の父子相伝~」がとても面白く、最後まで見てしまいました。香道とは、名の通り、香りによる芸術、その作法と歴史と伝統。志野流という流派で、父と子の間で描かれる歴史の継承。そして名を伏せて名香を持ち寄り、香りだけでその名をあてる「名香合」を開く。その名香合わせに参加するのは、歴史の教科書に出てくるような人の子孫も。面白かったです。運がよければ、また再放送で見れるかも。

特に体臭の章が面白いです。もちろん体臭も香りの一つ。人種による体臭の違いや体の部位による違いが、筆者ならではの化学的なアプローチと、ユーモアにあふれる語り口でとても興味深く読めます。しかし、やはり人一倍匂いに対する感受性が違うなあ、とため息ついてしまう。さまざまな経験から体臭に対する文化や役割にまで触れます。コエンザイムQ10が筆者自身の体験として、加齢臭に効果を感じているそうですよ。

香りの出てくる文献は古く、聖書にも出てきます。香りはかなり古くからある文化のひとつであることは間違いないでしょう。日本でも源氏物語に代表されるように、香りが文学などの芸術の中で重要なファクターになっています。

香階という、音階を香りのに置き換えたものがとても興味深い。

音が調和する組み合わせがあるように、それを香りに置き換えて、香りの響きの調和を感じることができるもの。

香りに関する事柄の幅の広いこと、広いこと。もっといろいろ知りたくなると思います。

ネタバレほぼ無し 小説【ハサミ男】 きっとだまされる…。驚きのラストまで、一気読み

最初の1ページ目からすでにだまされている、と言ってもいいかもしれない。

小説ならではのトリックとどんでん返し。「まじかー」とラストでなりました。

ただ、これから読もうという方にご忠告。

だからといって、「だまされるものか」という姿勢で読むと、いろんな可能性を考えながら読んでしまうので、(この人、実在するのか?とか余計なことを考えてしまいます)あまりオススメできません。そうではなく、物語に入り込んで、そして翻弄されて、最後には愕然としながらラストに導かれるのが、読書体験として幸せだと思います。

題名から想像してしまうほど陰惨な描写はなく、それよりも主人公の屈折した、ともいえる生活を、ずっと近くから覗き見しているような(まるで主人公の頭の中にいるような)感覚になります。また、登場人物がこの長さの小説にしては、比較的多目に出てくる感じもします。物語は、主人公ともう一人、若手の刑事の視点、犯人を追う側の視点で進んでいきます。

ネタバレに触れないようにすると、結局何も書けないですが、引き込まれてどんどん読んでしまいました。読後感も悪くなく、全てがわかると、また最初から読んでみたくなりますね。

しかし、よくこれ映画化しましたね…。見てないのでわからないのですが、映画向けとして脚色はあるみたいですが、そもそも、なんとしても映像化してやろうという気迫がすごいと思いました…。

京極夏彦シリーズ、コミカライズ版について

京極夏彦シリーズ、コミカライズ版について

今から25年前、京極夏彦さんの「姑獲鳥の夏」を初めて読んだ時はとても衝撃を受けました。「こんな小説、読んだことがない!」

妖怪+探偵もの、というざっくりした認識で読み出したのですが、山ほど出てくる知識と言葉の大海のなか、昭和初期の雑多で妖しい薫りにあふれ、古書や呪い、神道、そして妖怪たちの姿が無作為(のように見える)に立ち並び、しかもその全てが最後の大団円に向かって集約していく様に鳥肌がたち、決して薄いとは当時は言えないボリュームの作品を、何度も何度も読み返しました。

出てくるキャラクターも個性強すぎな面々で、また彼らがどんなとんでもない事件に巻き込まれて、それを解決していくのか、を楽しみに新作がでるのを待ったものです。

それから十数年たって、あまり小説を読むことも少なくなってきた時に、魍魎の匣がコミカライズされていることを知りました。最初は小説のコミカライズというとあまりポジティブに(しかもあの、小説だから感じる禍々しさ満載の魍魎の匣の)受けとめられなかったですが、小説の雰囲気を丁寧に描かれていて、小説ではないコミックならではの魍魎の匣になっているのがスゴい!と思いました。

魍魎の匣も小説が大好きで、いつも持ち歩いていて、なにそれ辞書?と言われたこともありました。そのボリュームも、コミック版で5巻に収まっているところも、量としてもちょうどいいと思いました。そして、いつの間にかこのコミック版も、発売を楽しみにするようになりました。シリーズの順番は原作とは違い、シリーズ最初の姑獲鳥の夏が、結構後になって発売されたのも、満を侍してという感じですね。

正直なところ、「絡新婦の理」は少し消化不良な感じがしましたが、その次に出た「鉄鼠の檻」は原作の窒息しそうな閉塞感も感じることができて楽しめました。あと、次は「陰摩羅鬼の傷」なのかな、という感じですが、しばらく間があいているみたいですね。